大谷石採取場跡地の陥没に伴う野外AE現象


 
 

9..E〜G陥没発生までの時間的変動

 本項では,1991年4月29日に発生したE〜G陥没の前兆現象である野外AEについて,その活動指数の特徴を示す。 
 

1) 日別活動指数
 図−9 は1日毎に集計した活動指数のグラフである。
 1990年3月下旬に群発的な発生をみたが,これは隣接して発生したD陥没の影響である。 その後しばらくは野外AEを観測しなかったが,7月中旬以降約2ヶ月間にわたって比較的規模の大きな野外AEを検出した。
 10月以降は目立った活動を再び示さなかったが,1991年3月下旬に突然大規模な野外AEが発生した。 1ヶ月後の4月26日からは活動が更に激しくなり,3日後の29日に陥没が発生した。
 なお,観測所は4月26日から特別警戒体制に移行した。
 陥没の発生する少なくとも1ヶ月前から,極めて規模の大きな野外AEが前兆現象として観測されるという事実は,野外AEの観測が陥没の危険信号発生装置して,十分利用し得るものであると評価することができる。
 ただし,現在では陥没の正確な発生時期を,短期的に予測すること(例えば1日〜2日の精度)は極めてむずかしい状況にある。


図−9 E陥没の日別 野外AE 活動指数


 
2)時間別活動指数
 図−10 は,活動指数の時間による変化を,より細かく観察するために作成した時間別活動指数である。 陥没直前の日別活動指数からは,野外AEがほぼ連続的に活動(発生)しているように見られるが,時間別に集計し直してみると,ある短時間に集中して発生する群発型の特徴が検出された。
 更に,4月26日に極めて激しく活動した野外AEが,次第に終息に向かいつつあるように思わせた29日に陥没が発生した事実は,今後の陥没予知に向けた重要なデータであると考える必要があろう。


図−10 E陥没の時間別 野外AE 活動指数


 
3)日別活動指数の周期特性
 活動指数の発生形態に何らかの周期的な特性があることを期待して,FFT法による周期分析(周波数分析の逆数)を行った。 結果を 図−11 に示す。 本図にはD陥没の結果も併記されているが,まとめてみると4日〜5日,10日前後,15日前後,30日〜34日,50日〜60日にそれぞれピークが認められる。
 これらの事実から,前兆現象の活動にはある決まった活動の繰り返しがあると考えるべきであるが,残念ながらその原因は本文執筆時にも解決していない。

図−11 日別活動指数の周期特性
参考データとして「東京湾の潮位変動」の周期特性を例示するに留めたい。 これは1日毎の(最高潮位 − 最低潮位)をグラフにし,FFT法によってスペクトルを求めたものである。
 図−12 はその結果である。シャープな卓越周期が約5.2日,約15日(〜18日),約29日に存在する。 日別活動指数の周期特性と比較してみると,15日前後のピークは共通して存在し,次いで5日前後のピークも同様である。 2日〜3日のピークと30日〜34日のピークは一部対比できそうである。
 野外AEの周期的な発生パターンを考える場合,太陽と月の運行による重力変化が,一種の繰り返し応力となって残柱他に加わっていることを示唆するデータと考え,今後力学的な解析を行う上で,検討を行う必要があるかも知れない。 


図−12 東京湾の潮位変動の周期変動