1.はじめに
本論にはいる前に、固体の物性について簡単に述べたいと思う。
気体や液体とは異なり、固体はある力を加えた場合には応力に比例した変形を示し、その加えた応力を除去すると元の大きさに戻る、という共通の性質がある。 これをHuck(フック)の法則と言うが、厳密には物質によってその反応の程度に差が見られることはよく知られた事実である。 その極端な例はバネ(スプリング)であるが、岩盤も基本的にはバネとまったく同じであって、圧縮応力を加えれば縮み、引っ張り応力を加えれば伸びる。 ただ、バネのように大きな変形量を示すことがないために、この変形量を測定するためには微小な変位を測定する特殊な測定器が必要となっている。
変形量を単位化するために、固体の元々の寸法と変形量との比である「ひずみ量」がよく用いられている。 ひずみ量と応力の関係を見た場合、応力を増やした結果、ある決まったひずみ量を越えると急激に変形が進み、元に戻る性質も失われるという、いわゆる破壊が発生する。 圧縮による座屈や引っ張りによる破断などもこの破壊の一形態である。 このため、応力を加えた状態で利用する物質では、そのひずみ量が破壊点よりも十分に小さい状態で使用することが極めて重要である。
少し具体的な事例を述べてみる。 大きな岩盤をくり貫いて作られた四角の地下空洞では、地表から天盤までの重量は空洞の壁や柱には圧縮応力となり、天盤には引っ張り応力となって加わっている。 従って、地下空洞が安定するために最も重要な条件は、岩盤の強度を越えるような応力を発生する形状(大きさ、形)の空洞を掘削しないことか、または岩盤に人工的な補強を十分に施すことである。 しかし、岩盤ではその構成物質や分布状況が一様でなく、極めて複雑な変形特性や破壊特性を持っているために、これら岩盤の力学的性質の定量化はむずかしいとされており、トンネルや鉱山の坑道がしばしば崩壊する事実はこうしたことを裏付けているものと考えられる。
大谷石で知られる流紋岩質・軽石質凝灰岩の採取場跡地においても、しばしば跡地の天盤部分が崩壊・陥没した歴史を持っており、現在防災の観点から陥没に伴う前兆現象の監視観測が行われている。 本論は、筆者が係わっていたこの観測結果を例に取って、こうした岩盤崩壊の一形態である地盤陥没とその前兆現象である野外AEの活動状況について述べてみたい。
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