大谷石採取場跡地の陥没に伴う野外AE現象


 
 

12.おわりに
 
  野外AE観測システムを使用して大谷石採取場跡地を観測した結果,導入後に発生した2回の大規模な陥没の前兆現象を,野外AEとして比較的早期から検出することができ,各方面に対して警戒すべきであると言う情報を事前に提供することができた。
  観測の結果は次のようにまとめることができる。
@ 陥没の前兆として発生する野外AEは,陥没の少なくとも1ヶ月前から活動が顕著となるため,陥没の危険信号発生装置として有効な手段であると評価できる。 また,この野外AEは15日毎に群発するといった,活動にある一定の周期的な特徴がある。
A 陥没の直前の活動指数の増加量と,陥没との間になんらかの関係がみられるようであるが,結論は今後の観測結果を待つ必要がある。
B 野外AEの発生場所と陥没の発生した場所はほぼ一致しているため,陥没の発生位置を予知する手法として有効であると評価できる。

  表−3 は,地震や野外AEのように自然に発生する地震の波(弾性波)を利用する間接的な探査方法の特徴をまとめたものである。 現在,筆者らの技術水準はNo.3のあたりまでであって,この状況をNo.4からNo.5に延ばすために,今後より多い観測データの積み重ねと研究が必要であると考えている。
  最後に,本文作成に際し尽力を戴いた栃木県,宇都宮市,大谷石石材組合,(財)大谷地域整備公社及び川崎地質鰍フ関係者各位に対し,深く感謝の意を表すものである。
  特に,大谷地域整備公社からは観測データの公表を許可して戴いた。   併せて感謝したい。
 


表−3 野外AEなどを利用した観測の特徴
No.    検出・解析・推論  確 度              備    考          
 1  AEの検出(時刻)   大  何かが発生した
 2  発生場所の標定   ↑  どこで発生した(空洞の上?,下?)
 3  発生現象の推定  どんなことが起きたのか(落石,亀裂,座掘?)
 4  発生原因の推定   ↓  どんな応力が発生したのか(クリープ?)
 5  今後の推移   小  これからどう変化するのか?

 
《参考文献》
陶野郁雄(1990),大深度地下開発と地下環境,鹿島出版会,PP.166-168.
中田文雄・野口静雄(1990),野外AE観測データ処理ソフトウエアの開発,物理探査学会第83回学術講演会論文集,PP.51-56.
中田文雄(1990),大谷石採取場における振動観測データ処理システムの構築とAE活動,情報地質,Vol.1, No.2, PP.179-189.
中田文雄(1991),パソコンを利用した野外AEの発生位置表現−1,日本情報地質学会第2回講演会論文集,PP.37-38.
中田文雄(1991),パソコンを利用した野外AEの発生位置表現−2,日本情報地質学会第2回講演会論文集,PP.81-82.
中田文雄(1992),野外AEを利用した陥没予知,(社)土質工学会中部支部・中 部地質調査業協会,調査・設計・施工技術報告会講演集,PP.5-20.
中田文雄(1992),野外AE観測における地盤情報データベースシステムと利用,情報地質,Vol.3, No.1, PP.15-29.
中田文雄(1992),大谷石採取場跡地の陥没と野外AE活動,第27回土質工学研究発表会論文集,PP.37-40.
三室・山内・山下・長尾・柴田(1992),大谷石の時間依存強度特性について,第27回土質工学研究発表会論文集,PP.1235-1236.
横山幸満・岡田宏樹・上野勝利(1992),大谷石のクリープ破壊に関する実験,第27回土質工学研究発表会論文集,PP.1237-1238.
吉中・藤枝・大橋・長谷川(1984),大谷石地下採掘空洞の岩盤破損について,岩の力学連合会・土木学会・土質工学会・日本鉱業会・日本材料学会