大谷石採取場跡地の陥没に伴う野外AE現象


 
 

10.野外AEの発生位置

 陥没の前兆現象として発生した野外AEのうち,比較的規模の大きなものは複数の観測点で同時に波形を検出することができるため,その発生位置を推定計算することが可能であった。 本項では,この発生位置の特徴から4つの期間に区分した。  なお,位置を示す図において,丸は発生位置を示しており,その大きさが発エネルギーを示す。 青(赤)丸は誤差の少ないケースを,白丸は誤差の大きいケースを示す。
 

1) 1990年 7月15日〜1991年10月14日(図−13)
  比較的活動の活発であった期間の推定発生位置であって,E陥没地の北側から北東部分にかけて発生している。 やや幅のある南北の線状を示しているが,この付近には推定断層があるため,その影響を反映していたことも十分考えられる。


図−13 E〜G陥没地 野外AEの推定発生位置−1


 
2) 1990年11月15日〜1991年 1月15日(図−14)
  野外AEはE陥没地の北西部分に集中して発生した。また,E陥没地の東の縁で発生した野外AEは,前記の集中発生域に相当している。


図−14 E〜G陥没地 野外AEの推定発生位置−2

3) 1991年 3月 4日〜1991年 4月25日(図−15)
  陥没の直前約2ヶ月の間に発生した,野外AEの推定発生位置である。 E陥没地の内部とその周辺に集中して発生している。 その北側に発生した野外AEは,陥没に伴って発生した西から北に伸びる地盤亀裂の延長線上に分布しており,地下における何らかの変動を現しているのではないだろうか。
 F陥没地の周辺や,両陥没地の中間部分の西側でも野外AEが発生しており,陥没地全体にわたって岩盤の崩壊や亀裂の進行が進んでいたことを示している。


図−15 E〜G陥没地 野外AEの推定発生位置−3

4) 1991年 4月26日〜1991年 4月29日(図−16)
  陥没の直前の4日間に発生した野外AEの推定発生位置である。 E陥没地の周辺を除き,地表に発生した亀裂に沿って,一列にならんだ状態で野外AEが発生したことが判明した。 丁度,金属板に小さなドリルを使って大きな穴を空ける時には,小さな穴を一列に空けることが良くあるが,この状況によく類似しているように思われる。 このことから筆者は,直接陥没や沈下の範囲を決定づける地盤内部の亀裂は,この時期に形成されたと考えている。


図−16 E〜G陥没地 野外AEの推定発生位置−4

5) 1990年12月17日〜1991年4月29日(図−17)
 本図は,陥没の直前約4ヶ月間に発生した野外AEの推定発生位置を,陥没地の南北断面に投影したものである。 ただし,断面線の東西各々50m以内に限っている。 E陥没地とF陥没地の発生場所や面積と,こうした野外AEの発生区域とは極めてよい一致を示している。 更に,両者の中間部分である,Gと呼ばれる沈下領域では,地表面近くの浅い部分でのみ野外AEを観測した。 これらのことより,陥没の前兆現象として発生する野外AEの発生範囲と,実際の陥没は一致するものと評価することができる。

なお,この観測においては,F陥没地に直接関係があると思われる野外AEの発生位置を具体的には求めることはできなかった。 その理由として,F陥没地直下での岩盤破壊は,観測以前にすでに生じていたためと考えている。

 
図−17 E〜G陥没地 野外AEの推定発生位置(断面)